専ら相続税節税のための養子縁組も直ちに無効にならないとした最高裁平成29年1月31日判決について

 

最高裁第三小法廷は、養子縁組無効確認請求訴訟の上告審で、「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」として、「専ら」相続税節税のためになされた養子縁組も原則無効とならないことを明言しました。

これにより、遺産分割調停・審判の前提問題である相続人の確定段階でしばしば問題となる、養子縁組無効確認請求訴訟の審理が、請求棄却方向で迅速化することが予想されます。
また、よほどのことがない限り養子縁組無効確認の訴えは棄却されるということが浸透すれば、訴訟提起が差し控えられて、前提問題で調停がストップせず、遺産分割調停・審判が迅速化するという影響も予想されます。

相続対策の養子縁組は、長男夫婦の長男(=孫)と行われるケースが多く、事業を営んでいて財産のある人が、その事業と財産を長男の家系に承継させようとするのが典型的です。孫と養子縁組をしておけば、二次相続によって遺産が目減りすることを回避できるというメリットもあります。このようなことは、以前からよく行われていたことです。

この判決は、相続人1人あたり600万円の基礎控除が認められることによる相続税の節税対策という観点から報道されることが多いようです。しかし、バブル経済の時代と異なり、相続税法改正により、実子がいる場合に基礎控除が認められる養子は1人までに限定されています。このため、節税メリットといっても限定的です。

長男の子である孫との養子縁組が行われると、最も影響を受けるのが、被相続人の長男以外の兄弟姉妹です。相続人が増えることによって、法定相続分も遺留分も減少してしまうからです。それだけでなく、養子縁組により長男の取り分が事実上2倍になることも、兄弟姉妹の不公平感を煽ります。それゆえ、これまで、養子縁組無効確認訴訟が多数提起され、ただでさえ時間のかかる遺産分割手続きが大幅に遅延していたのです。

今後、遺産分割の前提問題としての養子縁組無効確認請求訴訟は減少傾向になるかもしれませんが、孫との養子縁組にあたっては、紛争回避策を講じておくことが必要だと思います。

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