最高裁大法廷は、これまでの預貯金債権は遺産分割の対象とならず、相続と同時に各相続人に当然に分割されて帰属するとの判例を変更して、預貯金債権も遺産分割の対象になるとの決定をしました。
これにより、遺産分割未了の間、各共同相続人からの法定相続分に対応する預貯金の払戻請求を銀行等金融機関は拒絶することになります。このことは、被相続人が多額の預貯金を遺して遺言なくして死亡した場合、相続人全員が同意しないと、その預貯金の払い戻しができないことを意味します。すなわち、共同相続人間に争いがある場合、10か月の申告納税期間内に、相続税の納税が完了せず、相続税を支払うための遺産が目の前に十分にあるのに、高額な延滞金が課せられるという事態が起こることになります。
木澤裁判官らの補足意見は、このような不合理を想定してか、家事事件手続法200条2項により仮分割の仮処分の申立をして、相続財産中の特定の預貯金債権を特定の共同相続人に仮に取得させる手続を活用することができるとしています。もっとも、仮分割の仮処分申立には、遺産分割調停の申立がなされていることが要件となりますので、今後は早めの調停申立を意識する必要があるということになります。
このような事態を回避するには、事前に遺言をして金融資産の取得者を決めておくことが有効です。特に公正証書遺言があれば、比較的容易に、金融機関から預金の払い戻しを受けることができる(拒絶する先に対しては訴訟で払戻を受けることができる)と思います。