内部通報制度は、役職員等が勤務先に設けられた社内窓口や勤務先が委託した社外窓口などに対し、勤務先で生じている問題を通報できる制度です。

東京証券取引所は2015年6月、コーポレートガバナンスコードを制定し、上場会社は内部通報にかかる適切な体制整備を行うべきであると規定しました(原則2-5)。

その後、消費者庁は2016年12月、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」を発表し、各社社内における制度設計の指針を示し、通報窓口拡充のため、法律事務所や民間の専門機関等への委託を推奨しました。

そのせいか、最近、内部通報窓口担当の依頼が増えています。

内部通報制度をうまく機能させれば、不祥事拡大を未然に防止し、会社を守ることができます。

例えば、子会社役員が、女性社員にセクハラ・パワハラを繰り返したため体調不良をきたし、退職を考えた場合、内部通報をしないとすると、労政事務所や労働基準監督署で被害を訴えたり、退職して損害賠償請求の訴えを提起することが考えられます。また、被害者が新入社員の場合は、出身校の就職担当に相談することもあり得ます。そして、ハラスメントの事実が大々的に報道された場合には、当該子会社は、「ブラック企業」のレッテルを貼られ、求人活動に著しい困難をきたすばかりか、親会社が上場企業であった場合は、子会社管理義務違反を問われて株価が下落し、親会社役員の責任が追及されることにもなりかねません。

被害者がその被害が深刻になる前に内部通報窓口に相談してくれれば、それに対応して、内部通報担当自ら、または調査委員会を立ち上げて、ハラスメント等の違法事実の有無について調査をすることが可能です。その結果、ハラスメント有りと認定すれば、当該子会社に対し通報者(被害者)に対する不利益処分禁止を厳命したうえで、加害者(役員)に対するハラスメント禁止措置とその処分を求めることができます。不祥事が拡大して、会社に甚大な打撃を与える前にその芽を摘むことができるのです。

もっとも、実際に内部通報制度を機能させるのは容易なことではありません。

というのも、通報者は、内部通報を理由として解雇や報復人事を受けるのではないかという危惧を捨てきれないのが実情だからです。その心配をさせないようにするには、最低でも以下のような対応が必要です。

通報者に対する解雇・報復人事その他の不利益取り扱いの禁止、通報にかかる秘密保持の徹底
規則化して経営幹部に徹底します。
外部窓口を含む複数系統の窓口設置
社内一系統だけの窓口の場合、担当者自身が実は加害者・違反者だったというケースに対応できません。笑い話のようですが、少なからず散見されます。
社内広報の徹底
内部通報窓口の連絡先と、通報による不利益取扱をしない旨を徹底して社内広報し周知を図ることが必要です。
迅速な調査・是正措置の体制確立
せっかく通報を受けたのに対応が遅れたのでは、問題が拡大し、会社を守ることができません。調査は、関係者からのヒヤリングが中心になります。弁護士は日頃から業務としていますが、一般社員が対応するのは難しい場合があります。

これまで、内部通報や内部告発は、仲間を裏切る行為であるとして、ともすると、通報者に対し、解雇や「追い出し部屋送り」等の報復人事が行われがちでした。しかし、これが最もいけません。敗訴リスクが大きく、手続終了後も会社の評判を落とし続けます。

内部通報制度は、経営トップが、内部通報は会社を守るものであって裏切りではないということを徹底し、社内でリーダーシップを発揮してこそ機能するものだと考えます。

なお、特定の役職員を陥れる等不正目的をもってなされる虚偽の内部通報もないとは言えません。このような不適切な内部通報がなされた場合の通報者の処遇について、消費者庁のガイドラインには言及がありません。公益通報者保護法の保護要件該当性と懲戒処分等の有効性に関する一般法理に照らし、個別に判断して慎重に決することになります。