遺産分割事件の相談に来られる方は、グループで来所するのを希望することが多いように思います。
しかし、弁護士としては、委任を受けるのは原則として相続人1人とし、利益相反が顕在化しないと思える場合以外は、2人以上の相続人からの依頼は受けないようにするというのが基本だと思います。仮に受任する場合でも、依頼者同士の利害が対立したときは、すべての代理人を辞任することを明記した委任契約書を作成して受任する必要があるでしょう。
遺産分割は、限られたパイを複数の相続人が奪い合う、いわゆるゼロサムの世界です。相手が多くとればこちらがへこみ、こちらがとれば相手がへこみます。感情的対立も激しくなることが多く、合理的な提案であっても「相手の提案だから受け入れない。」となって任意の遺産分割協議が成立せず、やむなく遺産分割調停・審判と手続をせざるをえないことが多々あります。
遺産分割の当事者は、依頼のとき意見が一致していても、利益相反の潜在的な可能性があると言われます。複数当事者から依頼を受け、依頼者同士が仲間割れして意見が対立した場合、代理人は動きが取れなくなってしまいます。依頼者Aの主張を優先すれば、依頼者Bはその利益や希望が無視されます。そのとき、依頼者Bが、弁護士に対し、依頼した弁護士が自分の正当な利益を擁護していないと思うのは当然です。
弁護士としては、依頼者の数が多い方が取得する遺産額も多くなり、着手金や報酬金がたくさんもらえるため受任の誘惑にかられます。しかし、そうやって複数相続人の依頼を受けたのに、途中で依頼者同士が対立した場合に一方依頼者の方だけ辞任すると、弁護士職務基本規程27条1号に違反することになります。このようなケースで、弁護士会から懲戒処分を受けるケースも散見されます。
依頼者間の利益が相反する可能性がある場合は、受任にあたって十分な注意と説明が必要です。