ハラスメント研修の勘所

 

企業、特に上場企業にとって、子会社を含めた役職員のセクシュアル・ハラスメントやパワー・ハラスメントによる、従業員等の自殺や労働事件の発生は、株価に影響を与えるだけでなく、役員の対会社責任・第三者責任等の問題を生ずる場合がある上、大きな風評被害を発生させ、「ブラック企業」のレッテルを張られて求人活動にも多大な影響を及ぼすといった恐ろしい結果を発生させます。

 大きな不祥事を防止するには、まずは、内部通報による問題事象の早期発見・早期駆除・信賞必罰の体制を整えることによる重大化の抑止と、効果的な研修によるハラスメント予防の2つの対策が有用です。

そのせいか、最近、企業、特に上場会社において、ハラスメント防止のための研修が、盛んにおこなわれています。

もっとも、この種の研修も、よく工夫をしないと、形式的に法律や厚労省の指針等を紹介しつつ、メリハリもなく「あれはダメ、これはダメ」を列挙し、最後に裁判例等を紹介するというありがちなパターンに陥ります。このような研修では、受講者は、往々にして「わかっているよ、そんなこと。今までと同じじゃないの。」感じてしまい、まったく「気づき」が生まれず、ハラスメント防止に役立ちません。

市販されているビデオ研修素材のなかには、厚労省指針と明らかに異なる内容を講義しているもの(例:「パワハラに該当するか否かの基準も、セクハラと同様、被害者がどう思ったかである。被害者が苦痛を感じればパワハラだ。」)があり、従業員に誤解を植え付けている場合が散見されます。高名な学者や弁護士が監修者に名を連ねているからといって無条件で信用するのも危険です。

 内部通報窓口への通報を契機として、問題を起こした役職員を実際に事情聴取してみると、加害者となる人には、以下のような傾向が顕著にみられると思います。

1 会社員としてこれまで比較的順調に過ごしてきて、経営不振や上司や部下の不祥事の発生といった危機を経験していない。
2 「これまで問題なくやってきたから、今まで通りで大丈夫」、「セクハラは、被害者が『嫌。』と言わなければ問題ない。」、といった誤解に陥っている。
3 ハラスメントについての研修を受けていないか、受けていても問題意識が希薄。
4 ハラスメントが企業に与える重大なダメージや責任について説明すると、きちんと理解できる(「時すでに遅し」であるが)。

効果的な研修を受け、「気づき」があれば、不祥事を避けられたのではないかと思われる場合が大半です。

必要なのは、受講者が自ら聞こうという気になり、「気づき」が得られるような研修です。そのためには、聞き手が実感を持って聞けるような具体例を紹介する必要があります。そして、受講者の属する会社の文化や取扱業務、これまでにハラスメントが問題になったことはあるか、役員や従業員がハラスメントについてどのような問題意識を持っているかといった点をきちんと取材して、研修を組み立てる必要があります。

役職員に対する充実したハラスメント研修は、今の企業に不可欠です。

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